はじめに
近年、医療機関や関連団体は疾患別の患者など大きな分け方では無く患者一人ひとりに合わせて「つながり」を構築しながら認知と患者満足度さらにはエンゲージメントを深めることを目指して信頼関係を改善しようとしています。
理由は患者が自分にあった治療法を求める傾向が強くなり、同時にスマートフォンの浸透やマスメディアの健康情報が増加しており、多量の情報に触れる機会が多いからです。従来は情報は「○○の病気の患者」という区分けですが、実際には病名は同じでも状態が異なるだけでは無く、患者の経済行動や行動心理が異なりますので各患者ごとに必要としている情報が異なる可能性があります。
患者の背景や要望を知って患者に最適な医療と医療情報(医療リテラシー含む)を提供し、治療に主体的に参加することが患者と医療に従事する人にとって必要と考えられています。既存の医療サービスは医療従事者の働き方、医療費増大に加えて医療リソースの限度などの課題がありますが、医療提供を最適化するには施設や教育同様に「患者が治療への積極的参加」を促すことが必要となります。
既存のホームページからお知らせを発信するだけの一方的な情報提供だけでは患者の満足度向上やアドヒアランス向上にはつながりません。医療情報の世界は医療機関だけでなく、マスメディア、企業や患者から発信される情報であふれているからです。
それではどうしたら患者を把握し「つながり」を深められるのでしょうか。そのソリューションが医療デジタル・マーケティングであり、病院経営の中で導入が始まっているデジタル・トランスフォーメーションと並行して業務のデジタル化、あるいは現在あるデータを連携して多様なニーズの各患者に対応しようというものです。
医療デジタル・マーケティングとは
インターネットとスマートフォンが普及し、オンラインの医療情報を誰でも利用できる環境になりました。スマートフォンを一人一台持つことで患者は医師からの情報以外にマスメディアやインターネットの医療情報や口コミ評価、さらにはソーシャル・メディアを閲覧、またはオンラインで知人に相談しているように意思決定も患者ごとに多様化しています。。一方医療提供側は 不特定多数へやみくもに情報や広告を送るよりも、効率的に患者との接点を構築できます。
医療デジタルマーケティングは従来のリアルとオンラインで分かれていた戦略やサービスを統合して、どのメディア・チャネルでも患者により良い患者体験(ペイシェント エクスペリエンス)や医療情報の提供とコミュニケーションを行っていく方法です。そのために患者との全ての接点を管理し、ホームページアクセス解析データやメール、ソーシャル・メディアにより患者との接点を構築します。これら多数の接点でのアクションを強化することでマーケティングが強化されます。
データはアクセス解析や宣伝・PRだけではなく、患者の属性や行動データも蓄積され、データ分析により、アナログ時代のマーケティング手法では見えてこなかった患者の本音や関心の方向性、意思に影響を与えている原因などAIやマーケティング・オートメーションを組み合わせることでより高い精度で患者の行動を把握できるようになります。患者の傾向では無く、多様な患者一人ひとりに対して承認される内容の戦略的にマーケティングをすることが可能となるのです。
認知を強化するためにウェブ広告(Google、Yahoo等)が2012年頃から盛んになりました。しかし医療法でインターネット上の宣伝が規制されたり、検索キーワードがほとんど把握できなくなったりして、ホームページだけでは患者の不安や関心に応えて行動変容を起こすには、さらに他の力が必要な場合が多くあります。
2013年頃からTwitterやFacebookなどソーシャルメディアで決定や選択の後押しをしたり、患者同士で情報交換をしたりコミュニケーションに強いメディアとして現れました。さらに動画、コンテンツ、ビックデータ、AIなどデジタル関連の技術の進化がメディアを通じて利用されるようになり各患者の要望に応えるべく、良いペイシェント・エクスペリエンス(患者体験)を通して患者行動を点から線で連続的に捉えることをデジタル・マーケティングでは可能になりました。
自院の宣伝・PR同様に患者との「つながり」を育む、強化することが重要であり、従来担当者毎にはその努力をしておりましたが、十分に育み強化することに力を集中できない環境でした。しかし企画、マーケティング、診療部門などの関係者が全員で関わることで、知見の共有が始まりより効果的なマーケティングを推進できます。デジタル・メディアとしてホームページ、ソーシャル・メディア、コンテンツ、E-メール、動画、AI,ビッグデータ、IOTなど多様な選択肢が可能になっています。
フィリップ・コトラーの「マーケティング4.0」で提唱する5Aモデル(Aware(認知), Appeal(訴求), Ask(依頼), Act(行動), Advocate(推奨))にもあるように、患者のペイシェント・ジャーニーで態度変容を促すためのコミュニケーションは時間を要し、遠回りすることのようですが本来の患者とのつながりを目指すことができます。
医療デジタル・マーケティングの最終的なゴールは自院の宣伝・PR強化とともにエンゲージメントを深め、自院のプレゼンスを強化することです。一方で患者の要望を機能的・感情的・倫理的・社会的・経済的・環境的公正さで対応することにより、患者が治療に積極的に参加する行動変容を起こし、意思決定が円滑になることでアウトカムと業務の生産性が向上することです。「コトラーのマーケティング3.0 朝日新聞社」によると今迄のマーケティングのように営業志向であるばかりではなく、包括的なマーケティングで患者の不安を取り除くソリューションを提供するものであることが重要としています。
このように医療マーケティングは営業志向に加えて、患者への訴求力、社会への貢献や働く職員の環境をも包括したマーケティングへと変化しています。患者の意識の多様化に伴って、社会や患者にフォーカスしたソーシャルマーケティング、ソーシャルメディア・マーケティング、ウェブマーケティングもデジタル・マーケティングには包含されています。さらにマーケティングの自動化やAI・ビッグデータとの組合せで生産性を向上させる「医療デジタル・マーケティング・システム」の枠組みがあります。
医療デジタル・マーケティングが始まっています
このようにインターネットやデータ解析ツールを使うマーケティングを統合して、デジタル・マーケティングとしています。即ち、一連の患者体験(ペーシャント・エクスペリエンス)を患者中心の医療と同じように、患者との接点をすべてリストアップし、患者満足度やペイシェント・エンゲージメントを改善するマーケティングに進化しています。
連続性を確保する技術やツールが足りなかった時代がWebマーケ ティングの時代でした。即ち検索対策の限界、医療の広告規制などWebマーケティングだけでは全ての患者に対応できなくなっています。そして、スマートフォンが登場し、検索エンジンが充実し、ソーシャルメディアが普及して、これらのデータを分析して患者の考え方や行動を類推する方法が確立しました。これにより包括的なマーケティングが高い精度できるようになり、医療デジタルマーケティングの基本の枠組みができます。さらに、生産性を向上させるためにMA(マーケティング・オートメーション)を導入することも可能です。
すでに医療ソーシャル・メディアを推進している米国のメイヨークリニックでは多くの成果と、知見の共有が始まっています。国内でも国立がんセンターが「がん情報」の発信にホームページと同様にソーシャルメディアの利用が始まっています。
弊社では医療機関へ認知を毎年2倍以上に増加させるだけでなく、新規患者を獲得することを可能にしております。
医療におけるデジタル・マーケティング・システム
デジタル・マーケティング・システムは患者が利用するデバイスやメディアを使って、あらゆる接点で、患者に最高の体験を与えるための枠組みです。医療機関にとってもコミュニケーションを増やし、マーケティングにおける患者満足度を上げて、マーケティング業務の生産性を向上させることができます。
さらにデジタルマーケティングにAIやIoTを組み合わせることで、多様化する患者に適切な情報を提供したり、患者に不要な情報を提供することも減少します。そして受療行動を促すためのコンタクトポイントを設計し患者に行動を促すことができるようになります。このようなシステムを好まない患者もおりますが、事前の属性の段階でのデータを把握できれば不要な患者への働きかけは無くすことができます。
デジタルマーケティングの場合も、一般的にはホームページがマーケティングの中心メディアになりますので、アクセス状況をしっかり把握する必要があります。患者接点の多くがデジタル化され、大量のデータを分析して患者の好みや思考を推測して、最高のペイシェント エクスペリエンス(患者体験)を短時間に提供できるようにすることが必要です。例えば、心臓病の患者にがん情報やデータを提供してもペイシェント エクスペリエンスは改善しません。さらに心臓病の患者でも手術前と後では患者が必要としている情報は異なります。現在は患者という括りでまとめて情報発信をしていますが、患者は不要な情報が混じっている場合は満足度は低下します。
このように患者接点をデジタル化することは患者行動のプロセスを予測し必要な情報だけを提供するということになります。デジタルマーケティングプラッ・システムは広い意味で病院などWebやデジタル広告だけで完結しないものも含めて、ペイシェント エクスペリエンスを構築しようとするものです。
まとめ
患者の情報調査について連続的に追跡できれば、患者の今の状態、いつどこにいて何(ペイシェント ジャーニー)を考えているかをリアルタイムに把握し、適切な情報を提供し、最適なコミュニケーションを行なえることがデジタルマーケティングの特徴です。デジタル・マーケティングをまとめると下記の3点になります。
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従来のアクセス解析で得られる情報よりも患者の行動に関するデータが取得でき、タイミングまでも把握できるようになりました。ホームページのアクセス解析だけでは検索キーワードの大部分がわかりませんが、デジタル・マーケティングではより具体的に把握することが可能です。
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患者はキーワードを使って検索し病院ホームページで必要な情報を見ますので、キーワードや閲覧ページから関心・興味、閲覧している場所の推測、どれくらいの時間見ているかがわかります。さらにソーシャルメディアを分析すれば、どのような属性の方が閲覧しているか、さらに受診前に患者の医療や病気に向き合う姿勢に関して情報も入手できることがあります。同様になぜ受診したのか、受診した結果、どう感じているかがわかる場合があります。
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スマートフォンなどの普及で、まさに患者の今の状態を把握するなど、リアルタイムの分析が可能となりました。またAIやビッグデータとの連携で患者行動と経営データの関連性などより貴重なデータを入手が可能です。
デジタル・マーケティングは患者の認知を向上させるだけでなく、適切な情報を提供することを自動化して、患者にストレスを与えずに必要な情報が提供できればより診療にも役に立つことになります。さらに、患者が知りたがっていることを、医師が説明するだけではなくて、専門の医療従事者からの情報として情報提供ができる仕組みがあれば、患者対応を効率的にすることが可能です。
このようにデジタル・マーケティングは患者の認知を上げることだけなく、患者満足度、ペイシェント・エンゲージメント向上で医療機関のプレゼンスの強化や業務生産性向上に大きな力を発揮する時代になっています。
参考:病院経営とマーケティング2020年