はじめに
日本ではまだソーシャル・メディア(SNSを含む)は過去の間違った個人の利用方法のイメージがあり、邪魔物扱いになっている感があります。それでも厚生労働省や国立がんセンターなどの利用が始まっています。
さらに米国では「患者のために」、そして「医療関係者」のために生産性向上や、患者満足向上、治療への参加を促すことにソーシャル・メディアの利用が進んでいます。ここでは次の項目について扱っています。
医療ソーシャル・メディアとは
「ソーシャルメディアはインターネットを利用して誰でも手軽に情報を発信し、相互のやりとりができる双方向のメディアであり、代表的なものとして、ブログ、FacebookやTwitter等のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、YouTubeなどの動画共有サイト、LINE等のメッセージングアプリがある」と総務省サイトには記述されています。
ソーシャル・メディアの医療へのインパクト
ソーシャル・メディアの有効性は患者や医療関係者、医療・健康に関心がある人々にとって多く報告されています。さらにWHOでも医療サービスの継続的な提供には患者の理解が必須であり、リテラシーが無く受診しなかったり、医療リソースを無駄に消費すことを避けるためにはより消費者の理解と医療への参加が必要としています。このような消費者の行動変容を促すには情報提供だけでなくコミュニケーションが必要とされており、ソーシャル・メディアは距離や時間を超えて支援できる可能性があります。
今日ソーシャル・メディアが影響を与えていない分野はありません。 日本でもソーシャルメディア(スマートフォンに搭載されている)を使って意見を共有し、情報を探し、自分の経験について共有しています。医療も例外ではなく、米国の医師の60%はソーシャルメディアが患者に優れた情報を提供する方法としています。
もちろん、懸念がないということを意味するものではありません。 たとえば、人々がFacebookの利用を選択すると、結果がマイナスになる可能性があります。それでも、医療へのソーシャルメディアのインパクト(強い影響)があり、患者と医療関係者の双方に予想される障碍とともに大きな利益をもたらすことがあります。
2020年の新型コロナウィルス感染症の影響で、ソーシャル・メディアが利用が増加しています。多くの医学会はウェブ開催に移行して、新しい学会の運営を模索しています。この場合はウェブ会議にするだけではデジタル・コミュニケーションの機能を充分に利用したことになりません。ソーシャル・メディアと組み合わせてより良い環境を構築することが必要になります。
患者にとって、ソーシャルメディアは同じ健康関連の懸念を経験している可能性のある同僚や知人からアドバイスを得たり、自分の不安を聞いてもらう場所になっています。 また、生活習慣の変化や医療問題への解決策についてアドバイスを求めたりします。
例えば、いびきを心配している新世紀世代はブログを探したり、ソーシャルメディアコミュニティのメンバーからアドバイスを求めたりします。 あるいは睡眠時無呼吸のようないびきの健康に対する懸念を緩和したり、いびきのための様々な治療法の有効性についてのブログ記事を探すことも可能です。
ソーシャルメディアはオンデマンドの情報源となることがありますが、情報は最新で正確かどうかなど懸念もあり、 一般的に患者は医療価値が無い情報から良い情報を見分ける能力が充分ではなく、記事の責任の所在を判別できないことさえあります。
ソーシャルメディアは公衆衛生分野の研究ツールとしても利用できます。例えば、研究者はインフルエンザの発生を追跡し予測するためにソーシャルメディアを使用してきました。さまざまな病気やその他の公衆衛生上の懸念事項について公に利用できる情報が非常に多く、ソーシャルメディアをデータマイニングのソースとして使用する大きな可能性があります。米国の医学会ではソーシャル・メディアで学会の情報を発信するのは普通になっています。従って最新医学情報などは日本のホームページを検索しても見つからないことがありますが、ソーシャル・メディアでは #(ハッシュタグ)をクリックするだけで学会で今まさに発表されている情報を知ることも可能です。この時学会に参加していなくても、学会の雰囲気や医療情報の方向性などはわかるなど研究者や医療従事者には便利なツールです。
またソーシャルメディアは医療機関のためのマーケティングとコミュニケーションツールになりつつあります。1%の人々はソーシャルメディアから得た情報が医療の決定に影響を与えられると指摘した記事もあります。
ソーシャル・メディアはプライバシーに関する懸念や不正確な情報の拡散がある中で、医療業界のあらゆる分野の人々がさまざまな方法で使用することができ、マーケティング、教育、およびさまざまなコミュニティに必要なサービスを提供することができます。
国内外の事例
- NewYork-Presbyterian Hospital
- Cleveland Clinic(患者体験の向上を推進しています
- Mayo Clinic(医療ソーシャルメディアのコミュニティー)
- UPMC (the University of Pittsburgh Medical Center)
- IU Health (Indiana University Health)
- UCLA Health
- Johns Hopkins Medicine(名門医科大学)
- UCSF Medical Center
- Massachusetts General Hospital
- Mount Sinai Health System
- Cedars-Sinai
- Vanderbilt University Medical Center
- Memorial Hermann
- Florida Hospital
- Mercy Hospital (米国最大の医療グループに属す)
- Michigan Medicine
- Christiana Care
- Northwell Health
- BayCare
このようにソーシャルメディアは単にデジタル・コミュニケーションのツールでなく、患者と医療提供側の関係の見直し、生産性や、医療情報および技術の共有による教育、健康の啓発、患者のサポート、患者満足度向上など「患者中心の医療」推進のためのツールとして大きく関与してきています。
米国は日本の皆保険制度とは異なる医療行政ですが、患者とつながる医療にフォーカスした医療提供を目指し、患者の満足度向上とともに医療費の削減と医療従事者の働く環境改善の課題を同時に考えていく必要があることは日本と同じです。このように日本でも課題解決のきっかけをつくる可能性がソーシャルメディアにはあります。
ソーシャル・メディア導入時に準備すべきこと
- 情報の質と信頼性を担保できる組織
- 良い患者体験(ペイシェント エクスペリエンス)ができる戦略的な情報選択
- ペイシェント・ジャーニーを理解し行動変容を促すソーシャルメディアの理解
- ソーシャルメディアが患者の受療行動を妨げることに対する対策
- 守秘義務とプライバシーのガイドライン
- 個人情報を公開することの意味の理解
- 医療者と患者間のコミュニケーション・ガイドライン
ソーシャル・メディアを有効に利用するために医療リテラシーのみならず政治、宗教、年齢、家族構成、個人の経済状況、生活習慣、社会的状況などを考慮し一人ひとりの患者との対話またはコミュニケーションに留意することが必要です。
また個人をソーシャル・メディア上で攻撃したり、自分の考えを押し付けたりする傾向がありますが、実際の生活同様に多様性を認め、相手に敬意を払うことが必要です。
参考:
新型コロナウィルス感染症禍でソーシャル・メディアはどのように使われたか
【更新日】2020.7.15