AI時代における病院広報戦略-患者との共創でより良い医療を-

患者との信頼関係を強化する病院広報2025年

【内容】

1. はじめに

あなたの病院は地域住民にどのように評価されているかご存じですか?    この記事では病院広報について述べます。

患者の評価は診療科によって異なりますが、消費者は自身の希望に沿った医療機関をそれぞれの情報源で評価し、選択しています。

例えば、厚生労働省の2023年度受療行動調査結果によると、病院の医療提供に「満足」と答えた患者は外来で63.7%、入院で67.3%で、「不満」はそれぞれ4.4%と5.3%でした。10年ほど前よりも少し改善されているようですが、思ったよりも変化しておりません。

この調査結果は総合的なものですが、考慮すべき項目は施設や設備以外に以下のようなものがあります。

    1. コミュニケーションの質: 医師や看護師、スタッフが患者とのコミュニケーションを通じて、患者の不安や疑問を解消し、信頼関係を築く。
    2. スタッフの教育体制: 時期に合った研修や勉強会を開催し、スタッフの医療知識を向上させる。
    3. プライバシー保護: 患者の個人情報やプライバシーを守るための対策。
    4. 待ち時間の短縮: 予約システムの改善や効率的な診療体制を整えることで、患者の待ち時間を短縮することが重要です。

上記の項目は新しいものではなく、以前から言われてきたことですが、各医療機関が努力しているにもかかわらず、患者満足度の改善が進まない原因を考える必要があります。さらに、病院広報が必要な理由を改めて考えてみましょう。

医療環境や患者行動がコロナウイルス感染症のパンデミックによって変化していることも一因ですが、患者・消費者の行動や考え方が多様化しています。このような変化に伴うニーズに対応し、患者満足度と同時に患者の行動様式の多様化にも対応していく必要があります。堅実な広報・PRの枠組みは、患者満足度の向上だけでなく、ブランディングにもつながります。

2. 病院広報の目的

貴院では、病院広報の目的はどこにあるのでしょうか。
現代の医療機関において、患者満足度は医療機関が選択されるときの重要な課題です。そのための患者満足度を高めるためには、医療の質やサービスの向上はもちろん、効果的な広報活動が不可欠です。

病院広報は、広告宣伝とは異なり、力任せの発信ではありません。患者をはじめとするステークホルダーとの信頼関係を築くためには、着実な広報活動を通じたコミュニケーションが重要です。これにより、エンゲージメント(つながり)の強化が可能となります。以下に、病院広報の役割と目的を整理しました。

    1. 医療機関のCSR(企業の社会的責任)
      地域社会に対する責任を果たすための活動。
    2. 患者との信頼関係構築
      コミュニケーションとエンゲージメントの強化。
    3. 認知度向上とブランドの確立
      患者やステークホルダー(マスコミを含む)の認知度を高め、病院のブランドを確立することで、さらなるエンゲージメントを促進します。
    4. 医療情報の提供と患者教育
      医療情報を提供し、教育を通じて患者満足度や生産性を向上させ、信頼を深めることにつながります。
    5. 医療の意思決定への参加促進
      適切な医療情報の提供とインフォームド・コンセントの実践により、患者が医療に積極的に参加できる環境を整えます。
    6. 地域医療機関や関係者との連携
      地域医療機関や院内関係者との信頼関係を強化し、連携を深めます。
    7. 経営者への支援
      外部環境の分析や広報効果の評価を経営者に説明し、経営判断を支援します。
    8. 職員の経営戦略の浸透と組織活性化
      経営方針を職員に浸透させ、意識改革を促進することで、組織活性化とチームワークの強化を図ります。
    9. 看護師・医師、スタッフの採用促進
      看護師や医師の採用に向けた情報発信を行います。
    10. 危機管理対策
      大規模災害や感染症パンデミック対策:災害や感染症拡大時における情報提供と医療体制の広報を行います。
      不祥事対応:組織内で不祥事が発生した際の適切な対応と広報を行います。

以上の理由から、病院広報は患者満足度の向上に不可欠な要素であり、医療機関の信頼性や評判を高めるために重要な役割を果たします。効果的な広報活動を通じて、患者や地域社会との信頼関係を築き、より良い医療サービスを提供することが求められています。

3. 病院広報の現状と課題

病院経営者や関連部署と現状の課題について共有しているでしょうか?
病院広報は、各医療機関が共通の枠組みを持ちながらも、自院のビジョンや経営理念に基づいた戦略を必要とします。広報担当者は、自院の現状を正確に把握し、強み・弱みの分析に加え、内部環境、医療行政、経済動向、患者動向といった外部環境の分析を行い、経営者と共有する必要があります。

高齢化社会における医療需要の変化: 近年は高齢化社会の進展に伴い、慢性疾患を持つ高齢者の増加、在宅医療ニーズの高まりなど、医療需要は変化しています。 これらの変化に対応するためには、地域包括ケアシステム、高齢者向けサービスについても検討も必要となります。

経営環境分析では、内外の環境分析から実態を把握します。内部環境分析では、病院の医療技術、採用状況、設備などの強み・弱みを明確にします。外部環境分析では、地域社会のニーズ、競合病院の状況、技術革新や患者の期待といった社会的トレンドを把握します。

医療機関の多くは、自由診療を除いて医療保険制度を基に経営計画を進めていることが多く、広報はコストセンターとして扱われ、「ひとり広報」体制となることが多くなっています。その結果、知識や技術の向上が困難となり、DXやAI活用においても遅れが生じることが予想されます。

さらに病院広報の現状と課題について、中小病院と大病院ではつぎのような現状と課題があります。

中小病院の場合
      • 予算や人材の制約により、専任の広報担当者を配置できない
      • デジタルマーケティングのスキル不足
      • 地域密着型の広報活動の必要性
      • 広報担当者の専門性不足
      • 地域連携の不足
大病院の場合
      • 予算や人材は比較的確保しやすい
      • 多様な広報チャネルの活用が可能
      • 高度な医療技術や研究成果のPRを実施
      • 広報委員会による組織的な取り組み
      • 「ひとり広報」体制の医療機関も依然として存在
      • 広報の一貫性維持が困難
      • 患者とのコミュニケーション不足
      • 危機管理広報体制の不備
      • 意思決定プロセスの複雑さ
      • 情報発信の遅延

4. 効果的な病院広報戦略

病院の広報戦略は、情報発信にとどまらず、地域社会および周辺医療機関との信頼関係構築や、患者の信頼獲得がブランディングに繋がる重要な活動です。上述のように自院の強みをよく把握した上で、効果的な病院広報戦略の実行に必要なステップと、各ステップで押さえるべきポイントを解説します。

        1. 伝えるべきメッセージと対象となる患者
          • 医療機関としてどのようなことを伝えたいかを明確にします。
          • どのような疾患の患者に伝えたいのか。そのときの重症度や要望に対応できるかを明確にします。
          • 周辺医療機関や職員との信頼関係維持に必要なメッセージ。
        2. ホームページの最適化
          • SEO(検索エンジン最適化): キーワードの適切な使用、メタタグの設定、質の高いコンテンツを提供することで、検索エンジンでの順位を上げます。
          • 掲載内容の見直し、特に医療機関の差別化をする記事。
          • コンテンツマーケティング
          • 健康に関する情報提供: 健康に関するアドバイスや最新の医療情報を記事として提供します。これにより、病院の専門性をアピールできます。
          • ビデオコンテンツ: 医師や専門家によるビデオ解説を公開することで、患者が安心して治療を受けられるようサポートします。顔出しに抵抗がある方は音声のも可能。
        3. ソーシャルメディア活用
          • プラットフォーム選定: Facebook、Twitter、Instagramなど、ターゲットの患者が利用するプラットフォームを選びます。
          • 定期的な投稿: 病院の最新情報、イベント、健康アドバイスなどを定期的に投稿し、フォロワーとのエンゲージメントを高めます。
          • 広告活用: ソーシャルメディア広告を活用して、特定の地域やターゲット層にリーチします。
        4. オンラインレビューの管理
          • 患者の声を重視: Google My Businessや口コミサイトでのレビューを定期的にチェックし、患者のフィードバックに応えます。
          • ポジティブレビューの促進: 良い体験をした患者にレビューを書いてもらうよう依頼し、ポジティブな評価を増やします。
        5. メールマーケティング
          • ニュースレター: 健康情報や病院の最新ニュースを定期的に配信し、患者との関係を維持します。
          • ターゲティングメール: 患者の興味やニーズに合わせたパーソナライズドメールを送信します。
        6. 成果と継続的な改善活動:
          • 効果的な広報戦略を展開するうえで、技術的なことも重要ですが、メッセージが患者に届いていることを評価する枠組みが重要です。一時的にどのような技術を使っても広報の成果をきちんと評価しないと、改善につながりません。そしてその改善の速度を上げるほどメッセージは浸透していきます。
          • 広報業務においてはレポートは時間を費やしますので、自動化やツールを使って担当者の負担を管理することも必要です。
          • 多くの医療機関はAIの進化の速度が速く、AIエンジニアも少なく導入を迷うことも多いと思います。AIを使って広報業務を自動化することで、広報の迅速性と生産性を最大限にして差別化を図ることが可能になっています。何れにしろ今後AIは標準のツールになります。AIエージェントなど早期に経験を積むことで、より多くの知見が得られ、実際の業務活動でさらに機敏な業務を進めることができます。可能であれば、AIを装備したマーケティング・オートメーションのツールとしてサービスが既にありますので、利用も可能です。

      病院広報戦略事例

      病院広報戦略を利用している医療機関の多くは、広報誌やホームページを使って、患者への情報発信のほかに、地域医療機関向けの情報提供、職員採用情報を発信しています。近年ではソーシャルメディアのXやインスタグラムも利用する傾向にあります。

      特にコロナウィルス感染症のパンデミックのときは、ほとんどの医療機関が、自院の対応を発信していました。電話が途切れない状況でも、ホームページは途切れることなく情報が出ていますので、患者もそうした状況に少しは慣れてきたように思います。特に診療予約や面会予約などは電話よりもスムーズに繋がったなど、患者も経験してきました。また医療側にしても、集中する電話は処理できないことがありましたが、ホームページの利用を促すことで、電話の集中が緩和されました。

      地域の住民向けの「健康教室」は人気があり、住民の医療に対する関心の高さを表しています。直接に地域住民の意見を聞ける場所としても有効なイベントです。

      ソーシャル・メディアは診療所などでよく使っていますが、国立がん研究センター、東大病院、聖路加国際病院などでも医療情報を伝えたり、医療従事者向けの情報提供を実施しています。このように患者や地域医療機関、医療関係者とのコミュニケーションプロセスを構築することが始まっています。

      ソーシャルメディアやイベントなどはかなり業務量が多いので、専門の担当者がいないと実現できないことが多くあります。そのなかでどれくらいの情報を発信する必要があるかを経営者が把握しておく必要があります。業務量を把握しないでスタートすると、途中で担当者が挫折して、情報発信が止まってしまうケースがありますので注意が必要です。

      一方、米国のメイヨークリニックは非営利団体にも関わらずFacebookで130万人のフォロワーがいるほど、ソーシャルメディアを駆使しています。メイヨークリニックは都市から遠く離れた街にある病院ですが、その発信力は広告会社を凌駕するほどの勢いです。因みにメイヨークリニックは広告はほとんど出しておりませんが、多くのメディアから最高峰の医療機関として評価され、患者も世界中から治療に訪れています。掲げているメッセージは「最後に頼りにされる病院」です。
      参照:2024年の世界最高の病院-ニューズウィークランキング

      まとめ

      効果的な病院広報戦略は、病院のブランド向上や、地域社会との信頼関係構築につながります。2025年は情報の発信だけでなく、保険医においても差別化を進め、広報活動を通じて、患者が医療への理解を深め、患者が医療施設とつながれる環境を整えます。具体的なポイントをまとめると、以下のようになります。

      1. 適切な情報提供による理解促進
        2025年は、患者が医療への理解を深め、医療に積極的に関与できる環境づくりが重要です。
      2. 教育プログラムの展開
        患者教育を目的としたセミナーやワークショップ、またはオンラインの医療コンテンツの配信は、患者が健康管理に対して積極的に取り組む動機付けになります。
      3. 双方向コミュニケーションの促進
        広報の中で、患者からのフィードバックを受け取る仕組み(アンケートやSNSを通じたコメントなど)を取り入れることで、医療への参加意欲を向上させることができます。
      4. セルフケアの支援
        広報を通じて患者の健康維持の方法や日常的なケアの重要性を伝えることで、患者が自分の健康に関心が高め、医療への参加意識を向上させます。
      5. 信頼関係の構築
        適切な情報提供と医師やスタッフの顔が見えることで、患者や周辺の医療機関との信頼関係が深まり、医師や医療スタッフとの対話が活発になります。院内各部署との協力は、情報の入手、施策の運営上において必須です。
      6. 継続的な改善活動
        ほとんどの人がホームページを作成したときは、可能性に期待をしますが、時間とともに活動が低下してしまうことがあります。まずはできるところから、週単位、月単位でテーマを考えて、継続的につながりを増やしていくことです。改善活動は広報担当者だけでは達成できません、関連部署との連携を常に目指すことが必要です。DXやAIは広報をより強化していくことができます。
      7. リスク管理
        災害時や医療過誤など広報活動に伴うリスクを事前に把握し、対策を講じることが重要です。ソーシャルメディアでの情報発信には、プライバシーへの配慮や、誤情報の拡散防止など、慎重な運用が求められます。

      最後まで読んでいただきありがとうございました。広報業務の一助になれば幸いです。

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