病院広報戦略の役割・目的

病院広報戦略

医療技術の進化、高齢者の増加、情報システムの進化など、医療行政の変化は急速に進行しています。それに伴い、患者や消費者の考え方も大きく変わってきています。さらに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、医療だけでなく経済や社会のあり方全体に極めて大きな影響を及ぼしました。

このような大きな変化の中で、病院経営における病院広報はどのような役割を果たせるのでしょうか。ここでは、病院広報の役割と目的、そして広報戦略の重要性について考察します。また、病院広報の限界についても検討してみました。

1. 病院広報戦略の役割・目的

病院広報は広告宣伝とは異なり、力任せの発信ではありません。患者を始めとするステークホルダーとの信頼関係構築には着実な広報によるコミュニケーションによりエンゲージメント強化が必要です。広報の役割・目的は次のようになります。

  1. 患者の理解とエンゲージメントの向上:診療方針や経営理念の理解を深めることで、患者とのコミュニケーションとエンゲージメントを強化します。
  2. ブランドの確立:患者とステークホルダーの認知度を向上させ、マスコミを含めた広い層に対してブランドを確立します。医療機関の価値向上と承継への対策。
  3. 医療情報の提供:適切な医療情報を提供し、患者教育や知識向上を図ります。これにより、患者満足度を向上させ、患者・エンゲージメントを強化します。
  4. インフォームド・コンセントの促進:適切な医療情報の提供を通じて、患者が医療に参加しやすくします。
  5. 地域医療機関との連携強化:地域医療機関や関係者との連携を強化し、信頼関係を築きます。
  6. 地域住民とのコミュニケーション向上:地域住民とのコミュニケーションを通じてエンゲージメントを高め、アンバサダー戦略を展開します。
  7. 外部環境分析と広報効果の評価:経営者に対して外部環境の分析と広報効果の評価を説明し、広報戦略の見直しを支援します。
  8. 職員の意識改革:職員に経営方針を浸透させ、意識改革による組織の活性化とチームワークの強化を図ります。
  9. 人材採用の情報発信:優秀な人材を確保するために、看護師や医師の採用に関する情報を発信。
  10. 危機管理対策:大規模災害や新型コロナウィルス感染症のパンデミックなど、緊急時の危機管理対策を策定し、実行します。

2. 病院広報戦略の重要性

病院広報戦略は、自院の経営戦略に沿って策定されるべきです。他院の戦略を模倣しても、差別化はできません。現在の医療行政やパラダイムシフトである新型コロナウイルス感染症の影響、情報システム、ソーシャル・メディアの影響などを踏まえた速い変化に敏感に対応するコミュニケーションプロセスの構築が必要です。患者という一括りの対象ではなく、ひとりの患者に良い患者体験(ペイシェント エクスペリエンス)を提供しないと、その他の情報と差別がし難くなり、効果が薄れてしまうことが考えられます。

差別化が進まないのは患者視点の情報収集や分析が不十分であると考えられます。患者の信頼構築に時間がかかるので、患者の支持を得るために、患者像を想定した心理的・社会的要因を考慮した広報戦略が必要です。その結果として信頼の獲得→ブランド価値向上→患者の満足度向上→患者の主体的医療への参加が始まります。

3. 広報活動の役割とその限界

広報業務は、医療機関のブランドイメージや社会的信頼を高める上で重要な役割を果たします。しかし、広報活動だけでは直接的な患者獲得効果を得ることは難しい場合があります。

    1. 成果測定の難しさ: 広報活動の成果は、一般的に得られるデータが少ないので数値で明確に示すことが難しい場合があります。例えば、病院の認知度向上や信頼性向上は、アンケート調査などで測定できますが、それが直接的な集患にどれだけ貢献したかを正確に把握するのは困難です。成果測定は、費用と時間がかかるので、医療機関単独で認知度や浸透度を測るのは現実的ではないと考えられます。
    2. 直接的な行動喚起の弱さ: 広報は、病院の情報を伝えることを主な目的としており、患者に直接的な行動(受診など)を促す力は弱いと言えます。一方、広告は、特定の行動を促すことを目的としており、より直接的なプロモーションが可能です。
    3. 情報過多: インターネットやSNSの普及により、患者は多くの情報に触れる機会が増えています。そのため、病院広報が発信する情報が埋もれてしまう可能性もあります。
    4. 新規開拓の難しさ: 特に、新規開業の医院にとっては、医院を認知してもらう手立てとして、より一層重要度を増していますが、広報活動のみで集患・増患に繋げる事は難しいです。

広報は長期的な視点での信頼構築や認知度向上を目的としており、短期的な患者数の増加には直結しないことがあります。したがって、集患を目的とする場合は、広報活動と並行して、ターゲット層に直接アプローチするマーケティング施策を展開することが必要です。多くの医療機関で「広報とマーケティング」を兼任していますので、この点に留意する必要があります。

4. 対象

  • 高度急性期病院
  • 特定機能病院(大学病院)
  • 地域医療機関
  • 診療所
  • 患者会
  • 医療関連団体

【更新日】2025.2.26

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