はじめて医療機関や行政機関の広報に携わって、戸惑うことがあるかもしれません。そんな広報担当者が効果的な業務を推進して行くにはどうしたらいいのでしょうか?
医療機関や行政機関で前任者の退職・人事異動で突然に広報業務を担当することになった方向けに「はじめて病院広報を担当したら」をまとめてみました。
病院広報業務には広報・PRに関する経験に加えて経営企画に総務、人事、医事、特に診療部門の担当者との関係を構築することが基本です。しかし、医療機関によっては広報業務全体を把握することや、短時間に広報業務を習熟することが困難なことがあります。
一般的に医療行政機関、医療関連施設の広報の専門家は少なく、医療業務に比較して知識や経験が引き継ぎにくいことなど「組織の課題」として下記の項目が考えられます。
- 「病院広報の専門家が居ない、または専任の担当者不在」
- 「病院広報戦略が無い」
- 「病院広報のガイドライン、マニュアルが無い」
- 「経営方針が分かり難い」
- 「インタビューを医師や職員にし難い」
- 「他部門との連携は個人的な努力を要する」
- 「経営者が広報、またはマーケティングを宣伝と誤解している」
また医療に関する広報業務は一般企業と異なり、医療法の広告規制と大半の患者が健康保険に加入しておりその費用の範囲内での医療提供であることです。患者はどの医療機関でもほぼ同じ費用がかかり、自由診療以外は概ねガイドライン沿った診療になりますので、差別化が難しいサービスです。さらに限定された地域での医療サービス提供となり、他の医療圏から来て受診することは比較的少ないと考えられます。従ってメディア対応よりも地域連携や住民とのコミュニケーションを中心とした広報業務となります。自由診療の美容整形外科や歯科などは広範囲に宣伝をしますが、医科の病院経営者が患者とのコミュニケーションを重要視するのであれば、広報・PRを強化することが宣伝効果と相まって高い効果を得られます。
新たに広報担当になった時は、それぞれの組織ごとの状況を理解したうえで、上記の課題に留意しながら経営の方針と目的、医療機関の特徴、地域特性、DO&NOTDO(するべきこととしてはいけないこと)に加えて、次の項目の確認をお奨めします。
- 広報戦略策定と管理・評価および広報ガイドライン
- 印刷物、インターネットなどオウンド・メディアと広報計画
- ホームページ上での情報収集と発信など管理方法
- 経営者、各診療科、各部門との連携と担当者との関係
- 院内広報及び採用広報の実施状況
- メディア・リレーションの手順と戦略
- 危機管理システムと広報
- 病院広報の目的とゴール、または期待されていること
1.広報戦略策定と管理・評価および広報ガイドライン
多くの医療機関において広報ガイドラインを整備していることは少ないので、できるだけ具体的に経営者に広報について求めること、期待することをインタビューしておくことは最初に必要と思います。最終的にマニュアルにもなります。また広報というと、始めに方法論(戦術的な)について話し始めることがありますが、自院の立ち位置やミッションなどをどのように考えているかの確認が必要です。
またご担当者にとって経営戦略を理解している事が必要です。指示されたことだけの業務を処理し、優先事項見失っていることが散見されます。経営戦略を広報・PRにおいてどのように展開していくことができるかは経営者と連携したご担当者の業務が重要です。
広報戦略がなければ、注力すべき業務について周囲の協力が得られないばかりか、ご自身の評価や業務の予算も得られません。遠回しに感じるかもしれませんが、評価を得るには戦略、戦術そして明確な目標が必要です。そのために経営戦略を理解し、広報戦略も明確になり、最適な広報計画や手順も明確になります。
既に戦略や広報計画があれば、経営者・上司と内容を確認して役割と目標(どうなりたいか、業績評価指標(KPI))を明確にし業務を推進します。
現実には広報を従来の宣伝や口コミで集患しようという経営者の場合には、広報戦略も広報計画も無いことがよくあります。この場合は全体を把握してから広報の企画を作成し、提案してみたらいいと思います。
病院情報の発信やPRにはガイドラインを設定し、経営者とのギャップを少なくしておくことは必須です。医療機関によっては経営者や上司の言動を忖度(そんたく)しなければならないことが往々にしてあります。そのためにも「するべきことと、してはいけないこと」を把握しておくことをお奨めします。(当然ですが忖度して事実ではないことを発信することはすることは論外です)
2. 印刷物、インターネットなどオウンド・メディアでの内容と頻度
医療機関には基本的にパンフレットとホームページを運用しています。メディアとの接触に積極的な専門病院や特定機能病院もありますが、それ以外は地域住民へのリーチを優先する傾向にあります。また、採用広告、交通広告および看板は比較的多く利用しています。
多くの医療機関は近年はパンフレットとホームページを運用しています。ソーシャルメディアはまだ全体の10%程度の医療機関が活用しているにとどまっています。ソーシャルメディアは動画や写真を多用して、感性に訴える内容も発信するなどその頻度がポイントになっています。またマスメディアとの接触に積極的な専門病院や特定機能病院もありますが、それ以外は地域住民へのリーチを優先する傾向にあります。また、その効果は別として採用広告、交通広告および看板は比較的多く利用しています。
新型コロナウィルス対応から政府がオンライン診療を本格的に推進していることから、リーチするエリアが拡大しています。オンライン診療において特定の診療科目では競争が始まっています。
どのようにオウンドメディアを活用するかは人員と予算によりますが、具体的なゴール(目標)や戦略があるときにはわかりやすい広報計画(実行プラン)が必要です。広報計画を作成したことがない方は下記の手順をお薦めします。
- 経営計画と競合または障害となる外部環境の分析
- 内部環境の分析
- 経営計画に沿ったゴール設定
- 主な課題とリスクの対応策
- 広報計画作成
3. ホームページ上での情報収集と発信など管理方法
情報発信の主なものはパンフレット、広報誌、ホームページ、イベントなどがありますが、近年は費用対効果からホームページが中心的なメディアになっています。ホームページ等では発信のみならず、患者・住民からの反応も同時に知ることができます。そのためにも今後はホームページのデータと患者数の分析などは経営上において重要な業務になっています。
病院ホームページの閲覧数等の数値や検索キーワードの変化を知ることで、自院の認知度、関心度の変化などを把握することができます。広報またはホームページ専任者がいない医療機関ではアクセス解析をすることは業務が増加しますが、効果的な広報、採用で必ず役に立ちます。最近は無料のアクセス解析のサービスがありますので、わかりやすくホームページの効果を数値化し報告することができます。
近年ソーシャルメディアの利用が医療分野以外では進んでおり、すでに活用を進めている厚生労働省や国立がんセンターなどもありますが、米国の病院はより患者に近い処で情報を発信して、成功しています。特にインターネット世代の40歳代よりも若い患者を対象とする場合には、病院やクリニック(診療所)にとってホームページと組み合わせて運用することで接点を構築が可能です。
4. 経営者、各診療科、各部門との連携と担当者
広報業務は経営者や各部門の業務内容を患者・住民に伝え日頃から自院への関心を持ってもらうきっかけを作ることができます。そのためには院内各部署からの情報が随時出てくるような仕組みや人間関係は必須です。
一般的に職員にとって情報発信やコミュニケーションの必要性はよく理解されていませんので、経営側からの啓蒙が必要です。したがって広報担当者レベルで情報発信の啓蒙と関係構築は重要な業務になります。他部門を巻き込んで情報が入ってくる仕組みは広報担当者の努力または能力によるところが多くあり、重要なポイントです。広報の技術的な事だけに集中しても、他部門との連携が取れないことが、広報の難しいところでもあります。例えば広報と採用、地域医療連携室は各診療科同様に患者や医療関係者との接点になっているので、本来であれば情報の共有があってもいいのですが、縦割り組織においてはそれができないこともあります。
経営者との連携は最も重要ですが、経営者からは最小限の情報以外あまりコミュニケーションが無く十分ではないと感じている広報担当者もおります。理由は広報業務の実態が正確に理解されていないことがあります。従って「初めて病院広報業務を担当」した時には経営方針を理解するとともに定期的に状況分析に関する理解を促すために報告書を提出し、説明しておくことが重要です。
5. 院内広報及び採用広報
新型コロナ対応や物価の値上がりなど変化が大きい日々が続く今日、職員に対する情報発信は近年非常に有効です。広報を通じて経営方針や事業計画を知らせることで職員の円滑な協力を得ることを意図としています。職員全体への情報発信はできても、個人個人を動かすような高まりにすることが安全性や満足度、業務成果に結び付けることになります。すなわち上意下達式のお知らせでは職員には理解されないものがあります。
大規模病院では新型コロナ過で看護師採用はオンラインですることが一般化しました。看護師採用に費やす多額の費用を削減にも貢献しています。中小規模の医療機関も採用に関して、より効果的な採用戦略が求められています。
6. メディア・リレーションの手順と戦略
年に少ない回数でもメディア(新聞、テレビ等)に情報発信をすることは有効です。一時的ではありますが周辺だけではなく広範囲に発信できますので広報・PRの効果は高まります。効果がありますが、反応も強く出ますので配信前に関係者間で対応方法について協議しておくことが必要です。特に事業規模が大きい病院は日ごろから情報を提供し、メディアとの共存を危機管理とともに準備することが必要となります。最近はインターネットでプレスリリースを出すサービスが盛んになっていますので検討することをお薦めします。
7.危機管理システムと広報
医療機関における危機管理は医療事故をはじめとして大規模災害、新型コロナウイルス感染症パンデミック、ネガティブコメント、不祥事、個人情報漏えい関連(ハッキングを含む)、違法行為、経営等あります。
災害・防災は既に院内に防災対策マニュアル等がありますので、マニュアルに沿って広報・PRに展開することができます。そのなかで広報が発信する内容のホームページ用テンプレートを事前に作成し、関係者と共有することが必要です。よくあるのは、(1)災害時、(2)休診、(3)面会制限、等です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全国的な「緊急事態宣言」が発出されるほどの事態であり、初めての経験です。差し迫った状態では経営者ときちんと情報共有することが難しいことが想定されます。このような危機(リスク)に対応するために危機管理やBCPとともに病院広報の基本的な枠組みを決めておくことが必要です。枠組みが無いと経営者から「都度」指示されていることになります。コロナ渦で2年経過し、世界的にも生活のための活動を容認する方向にありますが、コロナ対応をしている医療機関は依然として従来と同じ対応です。しかし患者はそのような状況を把握していないので、医療機関と患者の間には行き違いが起きることがあります。従って各医療機関は来院時にはどのような対応を要求するかを理由とともに知らせておく必要があります。
その他の危機管理については、経営部門と対応について事前に調整しておくことが必要です。特定機能病院だけでなく中小病院でも経営上の追及を受けることがしばしば見受けられます。
8.病院広報の目的とゴール、または期待されていること
病院広報は患者とのコミュニケーション(情報の発信と広聴)で、円滑な健康生活が送れるように支援することを住民に認知され、相互の信頼関係を構築することが目的です。
また広報担当者は経営者に対して医療界の変化の中で自院の経営に影響すること、そして患者がどのように考え、行動しているかについて定期的に情報を提供(報告)することが必要です。経営者はそれ以上の情報を持っているかもしれませんが、分析を加えることで気づきを与えることがあります。
ひとり広報担当者の場合、パンフレットの制作やホームページの更新をしているだけの医療機関もありますが、ホームページのアクセス解析は患者の受療動向を知るうえで重要な情報を知ることができるので以前にどのように処理していたかを確認するとより業務内容がわかります。ひとりで広報業務が手一杯の時、割ける時間が少ないときには、簡素化または自動化してホームページの稼働状況を知ることは病院経営にも必要な情報が得られます。
【付録】はじめて広報担当者になった時の自己チェックポイント5つ
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- 医療機関を客観的に分析できる力(分析と可視化)
- 経営と医療情報に敏感であり、内外の情報を収集する力(企画・収集力)
- 経営者、医師、他部門とのコミュニケーション力
- 患者や住民の立場で情報を的確に伝える表現力(文章・動画・デザイン)
- デジタル・メディアでの発信力・PR力
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更新:2023/01/18